しかし、この時にレネゲイドウイルスに罹患してしまう。
水の中で静かに罹患した彼女は、人としての姿を保つ方が難しい存在となってしまった。
だからと云って彼女に「君はオーヴァードになってしまったんだよ、可哀想に」と云うものは(当たり前だが)居なかった。
自分の体に何が起きたのか。
それを彼女は正確に把握することは難しかった。
だがそれでも、わかったことは少しはあった。
1つは、自分が不思議な力を使えるようになったこと。
1つは、自分が年をとらなくなったということ
そして、不定期に自分は人ではなく水になってしまうということ。
不幸中の幸いは水になってしまう前触れを感じ取れたことだろう。
仕様がないので、彼女は人里離れた山中の洞窟に住み着くことにする。
もういっそ、死んで恋人の待つ来世へ旅立ちたかったが、自害しようとすると体が水となってしまい、出来なかった。

水になっている間は、洞窟のくぼみでまるで泉のように寝て、時たま人型になれる時に山で食事を摂ると云う生活を送る。
何時水になってしまうのかが不明だったため、彼女は山を下りると云うことはしなかった。
お陰で彼女は戦火を免れたが、自分が死ねない体になってからどれくらい経ったのかがわからなかった。

そんなある日。
彼女はとうとう自分の疑問に答えてくれる人々に出会った。
それは、偶然任務で山を通ろうとしたUGNエージェント。
そうして彼女は、UGNに保護されて力の使い方と現代についての説明を受けるのだった。

名前を「ふじむら　はるたか」と云う読みに直して作家名としている。
が、戸籍上だとこの読みが正しい。
初孫に浮かれた祖父が、性別も確かめずに勝手に男児だと思い、自分で考えた名前をこれまた勝手に役所へ提出、受理されたのだ。
ここら辺までならば、少しはありふれた話かもしれない。
だが、祖父はそのまま道を踏み外し、帰らぬ人となった。
やれ葬儀だ何だでドタバタした後、改めて子供の名前を提出しようと思ったら、既に変更すら出来なかった。
そんな笑い話にすらならない祖父との唯一の思い出を胸に、春貴は祖父の形見の杖をつく。

仲の良い幼馴染達がいた。
服装から分かる通り、かなりの変人で、親族からは「よく作家になれたな」と云われていた。
ぼんやりした性格だが、自分にとって大切なものに関しては人一倍執着している。
最近恋人が出来たらしいが、詳しく話そうとはしない。
普段はのんびりのっそりした動きだが、自分が興味あることを見つけるとそこそこ動きが早くなる。

服に関しては、布を詰めまくって凹凸を無くしている。